2021 年 6 月 16 日付けで、公益社団法人日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会より、「新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~」が掲載されました。
以下、日本小児科学会HPより転載です。
【要旨】
・子どもを新型コロナウイルス感染から守るためには、周囲の成人(子どもに関わる業務従事者等)への新型コロナワクチン(以下、ワクチン)接種が重要です。
・ 重篤な基礎疾患のある子どもへのワクチン接種により、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の重症化を防ぐことが期待されます。
・健康な子どもへのワクチン接種には、メリット(感染拡大予防等)とデメリット(副反応等)を本人と養育者が十分理解し、接種前・中・後にきめ細やかな対応が必要です。
国外での小児(12~15歳)を対象とした接種経験等1)をもとに、わが国でも2021年5月31日に12歳以上の小児へのワクチン接種が承認され、同年6月1日から適用2)となりました注)1。
【はじめに】
国内では小児に対するワクチン接種後の副反応に関する情報はありません。一方で、国内の医療関係者約2万人へのワクチン接種後の重点的調査(コホート調査)から、接種部位の疼痛等の出現頻度が高く、若年者の方が高齢者より接種後に発熱、全身倦怠感、頭痛等の全身反応を認める割合が高いことが明らかになっています3)。
注)1: |
2021年6月1日現在、12歳以上の小児への接種が承認されているワクチンはファイザー社製のみで、12歳未満の子どもに接種可能なワクチンはありません。武田/モデルナ社製ワクチンの接種年齢は18歳以上です。 |
そこで、子どもならびに子どもに接する成人へのワクチン接種に対する考え方を示します。
1.子どもに関わる業務従事者等へのワクチン接種が重要であると考えます
子どもへの感染源の多くは周りにいる成人であることから4)、子どもを感染から守るためには、周囲の成人が免疫を獲得することが重要と考えます。16歳以上の約4万人を対象とした国外の研究では、2回接種後のワクチン効果は95%(95% 信頼区間、90.3~97.6)で 注)2、発症を予防する高い効果が報告されました5)。また、英国の研究結果から無症候性の感染を防ぐことも明らかになっています6)ので、ワクチン接種により周りの成人から子どもへの感染が予防できる可能性が期待されます。
特に、重症化が懸念される医療的ケア児等に関わる業務従事者等 注)3、重篤な基礎疾患のある子どもに関わる業務従事者等 注)4および健康な子どもに関わる業務従事者等 注)5は、職種・勤務形態を問わずワクチンを接種することが重要と考えます。
注)2: |
ワクチンを2回接種すると95%の人が発症しないという数字ではありません。ワクチン2回接種後に発症した人が約2万人のうち8人、プラセボ(生理食塩水)接種後に発症した人が約2万人のうち162人という数字から計算されたものです。 |
注)3: |
障害児入所施設(医療型を含む)、児童発達支援センター(医療型含む)、児童発達支援、居宅訪問型児童発達支援、障害児相談支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援、特別支援学校放課後等支援事業などの事業を実施している施設・団体の職員、在宅ケアを行なっている家族(12歳以上) |
注)4: |
院内学級関係職員、医療機関におけるボランティア等 |
注)5: |
保育所(認可・認可外をとわず)、幼稚園、認定こども園、小・中学校、特別支援学校(高等部を含む)、留守家庭子ども会、学習塾、児童相談所一時保護所等の職員 |
2.子どもへのワクチン接種の考え方
1)重篤な基礎疾患のある子どもへの接種
国外では、神経疾患、慢性呼吸器疾患および免疫不全症を有する子どもの新型コロナウイルス感染例において、COVID-19の重症化が報告されています7)。国内においても接種対象年齢となる基礎疾患8)のある子どもの重症化が危惧されますので、ワクチン接種がそれを防ぐことが期待されます。
しかし、高齢者と比べて思春期の子ども達、若年成人では接種部位の疼痛出現頻度は約90%と高く1),3)、接種後、特に2回目接種後に発熱、全身倦怠感、頭痛等の全身反応が起こる頻度も高いことが示されています(例:37.5℃以上の発熱は20代で約50%、50代で約30%、70代で約10%)3)。以上のことから、ワクチン接種を検討する際には本人および養育者に十分な接種前の説明と接種後の健康観察が必要であると考えます。
基礎疾患を有する子どもへのワクチン接種については、本人の健康状況をよく把握している主治医と養育者との間で、接種後の体調管理等を事前に相談することが望ましいと考えます。
2)健康な子どもへの接種
12歳以上の健康な子どもへのワクチン接種は意義があると考えています。COVID-19予防対策の影響で子どもたちの生活は様々な制限を受け、子どもたちの心身の健康に大きな影響を与え続けています。小児COVID-19患者の多くは軽症ですが4)、まれながら重症化することがありますし7)、同居する高齢者の方がいる場合には感染を広げる可能性もあります。なお、子どもがワクチン接種をした場合、その後のマスク着用などの感染予防策の解除については、今後の流行状況などを踏まえて慎重に考える必要があります。
子どもへのワクチン接種は、先行する成人への接種状況を踏まえて慎重に実施されることが望ましく、また、接種にあたってはメリットとデメリットを本人と養育者が十分に理解していること、接種前・中・後におけるきめ細かな対応を行うことが前提であり、できれば個別接種が望ましいと考えます。やむを得ず集団接種を実施する際には、本人と養育者に対する個別の説明をしっかり行う配慮が望まれます。ワクチン接種を希望しない子どもと養育者に対しては、特別扱いされないような十分な配慮が必要と考えます。
小児COVID-19が比較的軽症である一方で、国外での小児を対象とした接種経験等では、ワクチン接種後の発熱や接種部位の疼痛等の副反応出現頻度が比較的高いことが報告されています1)。十分な接種前の説明がないまま副反応が発生することがないようにすることが重要です。
最近イスラエルや米国などから、若年男性におけるワクチン接種後の心筋炎の発症が報告されています9, 10)。ワクチンとの因果関係やその臨床像・重症度についても、まだ十分な情報は得られていませんが、学会として今後も情報を収集し発出していきます。当委員会では、小児のCOVID-19に関する論文を抄訳して学会ホームページ上で発表11)しています。今後も新たな情報をもとに更新していきます。
参考文献
- Frenck Jr RW, Klein NP, Kitchin N, et al.: Safety, Immunogenicity, and Efficacy of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Adolescents. N Engl J Med. 2021 in press. doi: 10.1056/NEJMoa2107456.
- 厚生労働大臣:「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施について(指示)」の一部改正について . 厚生労働省発健0531第4号令和3年5月31日. https://www.mhlw.go.jp/content/000786653.pdf(2021年6月9日アクセス)
- 伊藤 澄信、他:令和2年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 (新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)新型コロナワクチンの投与開始初期の重点的調査(コホート調査)健康観察日誌集計の中間報告(6). 第60回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第8回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催:2021年5月26日)資料. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18848.html (2021年6月9日アクセス)
- 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会:「データベースを用いた国内発症小児Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) 症例の臨床経過に関する検討」への参加のお願い. http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=344(2021年6月9日アクセス)
- Polack FP, Thomas SJ, Kitchin N, et al.: Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med. 383(27):2603-2615, 2020.
- Hall VJ, Foulkes S, Saei A et al.: COVID-19 vaccine coverage in health-care workers in England and effectiveness of BNT162b2 mRNA vaccine against infection (SIREN): a prospective, multicentre, cohort study. Lancet 2021;397(10286):1725-35, 2021.
- Kainth MK, Goenka PK, Williamson KA, et al.: Early Experience of COVID-19 in a US Children’s Hospital. Pediatrics. 146(4):e2020003186、2020.
- 厚生労働省:第43回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会(2020年12月25日開催) 資料(日本小児科学会提出文書を含む). https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000711250.pdf (2021年6月9日アクセス)
- Vogel G, Couzin-Frankel J:Israel reports link between rare cases of heart inflammation and COVID-19 vaccination in young men. https://www.sciencemag.org/news/2021/06/israel-reports-link-between-rare-cases-heart-inflammation-and-covid-19-vaccination (2021年6月11日アクセス)
- American Academy of Pediatrics: CDC confirms 226 cases of myocarditis after COVID-19 vaccination in people 30 and under. https://www.aappublications.org/news/2021/06/10/covid-vaccine-myocarditis-rates-061021 (2021年6月12日アクセス)
- 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会:小児の新型コロナウイルス感染症の診療に関連した論文. http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=334 (2021年6月9日アクセス)